ロウイングの科学と迷信


科学も迷信も紙一重?
 競技スポーツの分野では、器具や衣類、運動解析、生理学、心理学等々、すでに「スポーツ科学」が欠くべからざるものになってきています。しかし一方で、いわゆる迷信やジンクスにも根強いものがあります。
 もちろん、現在の科学理論や定説が未来永劫正しいとも限らず、実際、スポーツの革新・技術革命には、それまで定説とされてきたものを打破して進化したも のが少なくありません。今でさえ競技ロウイングの世界で標準の非対称オールも、20年前にブレイクする以前は異端の試みでした。また一方の迷信とされるも のの中にも、科学にどうも本当らしいと、後世になって正しさが証明されるものもあるようです。
ボート漕ぎはジンクスに無縁?
 縁起担ぎをする4大職業…といえば、船乗り、芸能人、スポーツ選手、ギャンブラーなのだそうです。なるほど。ということは…船乗りとスポーツ、そして ギャンブラー(笑)にも関係するロウイングというのは、よほどの縁起担ぎかもしれませんね(笑)。ところが、あらたまってロウイングにまつわるジンクス、 縁起担ぎがないものかと探してみても、以外に思い当たることがありません。「ストレッチャーの鼻緒が切れる」、「黒魚が前を横切る」、「艇庫の中で傘を開 くと不幸が訪れる」…言いませんねぇ。
 しかしスポーツ全般では、ジンクス、縁起かつぎの類はよく聴かれます。「2年目のジンクス」。「カープは鯉の季節まで」。(おおっ今年は新球場もできた というのに、このジンクスはなかなかしぶとそうです!)。「バンビーノの呪い」とは、ベーブ・ルースを放出したボストン・レッドソックスがワールドシリー ズで優勝できないというもの。これは、2004年にワールドシリーズを制覇して、ついにこの呪いは解かれたそうです。大相撲では、「平幕優勝に大関な し」、「荒れる名古屋場所」などなど。
 ところで、ジンクスって何語? 語源は?「神苦巣か」と思っていましたら(…オヤジギャグで“巣”…)ギリシア語の“jynx”から来た言葉で、英語で は“jinx”だそうです。その“jynx”とは、もともとキツツキ科の“アリスイ”という鳥のこと。頭が真後ろを向く不気味さから、魔術に用いられてい たようです。ちなみにアリスイというのは、“蟻吸い”だということです。「ありすい(そう)な名前ではないですね…」(しつこいな…)

 ロウイングにまつわるジンクスがなんとかないものか…と、インターネットで、「ボート、ジンクス」で検索すると、なんと、どっさりと出てきました! し かしそれは、「○○公園のボートにカップルで乗ると別れる」といった類でした。東京の井の頭公園、名古屋の東山動物園などなど、全国各地の手漕ぎボートの 池でそんなジンクスがあるようです。
 ボートの普及のためには、ぜひ、(テニスの混合ダブルスのように)「混合ダブルスカル」種目の新設が有効、ジュニアあたりから盛り上がるぞと、マジメに 画策しているのですが、こんなジンクスがあると、ちょっと不安になります。大橋川の遊覧船は、縁結びにご利益があるとか、ないとか?(笑)。

ウサギがフネに災いをもたらす!?
 ところで、フランス人の船乗りにとっては、ジンクスの最たるものがあるようです。それは、「ウサギが船に災いをもたらす」というもので、かなり強く信じ られているようです。船上ではウサギと名のつくものを、何でも兎に角(とにかく)嫌う、口に出してもいけないのだそうです。「口に出すと、災いがおきる」 と。
 由来は、帆船の時代、食料としてウサギも乗せていたところ、ロープをかじってしまったのだとか。また、白波が立つのを「ウサギが跳ねている」と言うようで、ラフコンディションをたとえた、との説もあるようです。
 もし、船上で「ウサギ!」と口にしてしまったら?「獲った魚を一匹海に返し海の怒りを鎮める」と良いらしいです。救済措置があるのがいいですね。
 日本ではウサギとボートは関係ないなぁ…と思ったら、そういえば松江のちかくでは因幡の白ウサギがいますし、カチカチ山では、タヌキがウサギに泥舟に乗 せられ溺れ死ぬというのもありますね。(いや、この話はタヌキが悪者。ウサギは復讐を手伝う正義の味方? でも少なくともタヌキにとっては、ウサギは災厄 そのものだったでしょうね。)
 いずれにしてもウサギが、フランス人クルーの漕ぎに影響を与え得るのは間違いない…。誰ですか、ニヤリとしたのは?「それならば、もしフランス・クルー と競漕するときは… ぜひ、ウサギのマスコットを贈ろう。あるいは、「lapin(ラパン)!と叫んでみようか?」自艇が沈したりして…(笑)
 まあ、効果は保証できませんが、嫌われることはまずまちがいないでしょう(笑)。冗談とうけとってくれ…ないでしょうね、きっと。国際問題に発展しかねないジョークはやめておきましょう(笑)。

科学もジンクスもスポーツの楽しみのために
 ジンクスは、ジンクスそのものに振り回されるのではなく、それを「楽しむ」ところにこそ価値があるといえます。この服で漕いだら必ず勝つとか、個人や チームで、何かジンクスがあるかもしれません。そんなジンクスを信じるクルーにちょっとした動機づけ、ユーモアに使う程度なら、ささやかながら心理的にプ ラスになることもあるでしょうね。一方で、ジンクスを気にして負けたのでは、ジンクス(を信じること)が最も悪く作用したことになりますね。ジンクスが本 物だったといえなくもないですね(悲)。
 ジンクスも科学も、「こうすれば、こうなる(だろう)」と未来を予言(推定)します。一方で、スポーツとは、ある意味、「不確定性」の世界です。たぶ ん、あのクルーの方が速い(かもしれない)。でも、勝負はやってみなくちゃわからない! だからこそ、また、少しでも勝つチャンスを増やすために、クルー は練習を積み重ねるわけです。ジンクスにしろ科学にしろ、それですべてが決まったら、自分の伸びしろや限界さえあらかじめわかるのだとしたら、スポーツを する意味などなくなってしまうように感じます。
 今日の市民レガッタに向けて、たくさん練習をされてきたみなさんは、ぜひそのことを心の支えにして自信をもってレースにチャレンジしてください。またあ まり練習もできずチームはバラバラ、ほとんど勝てそうにないクルーも、一縷の逆転の望みをかけて、そして効きそうなジンクスをみつけて、あきらめずにレー スを楽しんでください!

(太田川ボートクラブ 小沢哲史)